Life with INDENstory vol.13
重松 理Osamu Shigematsu東京都在住
株式会社ユナイテッドアローズ名誉会長、
公益財団法人日本服飾文化振興財団代表理事
株式会社ユナイテッドアローズ名誉会長、
公益財団法人日本服飾文化振興財団代表理事
東京都在住
株式会社ユナイテッドアローズ名誉会長、
公益財団法人日本服飾文化振興財団代表理事
日本の伝統に寄り添ってみる。
日本国内はもちろん、世界各国から審美眼を頼りに、“品(ひん)のいい品(しな)”を集め、さらにはオリジナルブランドを展開するセレクトショップのユナイテッドアローズ。「それは例えば、お付き合いしている方の両親に挨拶へ行くときの服であったり、面接の時の服であったり。大事な時に、着るものでその人の品格を高められるようなブランドを目指しています」とは今回のLife with INDENの主役である重松理(しげまつ・おさむ)さん。
現在名誉会長を務める重松さんは、 “セレクトショップ”という小売形態の草分け的存在でもある。1976年にビームスの設立に携わり、さらに1989年にはユナイテッドアローズを設立した。神奈川県逗子市に生まれた重松さんは、実家の近くに米軍基地があったこともあり、幼い頃からアメリカの豊かなライフスタイルを目の当たりにしてきた。アメリカ文化に対するカルチャーショックが服飾を志した原点と話す一方で、今見つめる先には、日本文化、そして日本人の精神性がある。それこそユナイテッドアローズが創立当初から掲げるもの。それは重松さんの言葉を借りると「日本の伝統をいかに住まうか。いかに装うのかを表現する」。
印伝は御守りのようなもの。
取材当日重松さんはスーツにトートバッグの姿で現れた。大きなトートバックに数種類の合切袋が入っている。「いつもこんな感じなんです。仕事柄、名刺ケースが多くてね、合切袋がものすごく便利で」と色々な名刺ケースを見せてくれた。特にこの合切袋の鹿皮の風合いが好きなんです。ディアスキンですよね。戦国武将の鎧にも使われていたもので、男として戦いに挑む、ビジネスを勝ち抜いていく、私にとって印伝の合切袋や名刺ケースは御守りみたいなものなんです」。すると少し照れくさそうに「もの選びを説明するのはなんだかこっ恥ずかしいですね。でも革ならではの魅力があるんですよね」とは重松さん。
この日の重松さんの靴は、クロコダイルレザーのローファーだった。「ワニ革やディアスキン、シボの入った牛革。大体決まっているんです。選択肢の中にそれ以外のものは正直ないほど……。だから印伝とのお付き合いは長いですよ。この前なんて身にまとうものまで作りたいと思って、別注でベストを作らせてもらったことがあるんです。本当はジャケットとかもいいかなと思ったんですけど、価格の問題と縫製がすごく難しくて、まだまだ商品化できていませんけどね」。印伝へのこだわりは一際だ。
日本人の「こころ」をファッションに落とし込みたい。
ユナイテッドアローズの創業当初は、意識的に国外にある“いいもの”を誰よりも早く見つけ、日本のライフスタイルに合うように提案をしてきた。しかし今はどうだろう?「欧米のものを見すぎた」と重松さんが語るように、目線はそう遠くを見ていなかった。 「日本古来の伝統や良いものをいかに伝えるか」と考える。重松さんがこのような考え方をする転機となったのは、東日本大震災で自身が実際に足を運んで体感したことだった。「日本人の“協調する”という精神性に心打たれたんです。自然災害の後に暴動がまったく起きないことや、お互いに共有するなどの文化が欧米とは決定的に異なる。それは島国だからという理由以外に、古来からある日本文化の影響もあるんだろうと再認識することができました」。
この経験で培った目には見えない日本人にある“精神性”。この精神性こそ重松さんがものづくりに求めたものだった。そして2016年に東京・銀座にわずか6畳の男女複合、和装洋装複合専門店『順理庵』を創業。 「なぜこのような店舗を作ったかというと、今まで私たちが表現してきた“和”は、海外から見た分かりやすい日本らしさだったことに気づいたからなんです。これからは日本の技術や精神性、美意識の高さなど、本質的な部分をさらに深堀りして表現していきたいと思っています。これはユナイテッドアローズの中ではできなかったことです。なぜかというと、ワンシーズンお店に出して売れなかったら次から仕入れられない。だけれどもこの順理庵では、マーケティングを無視した方法でやっています。私が本当にいいと思う日本で作られたものに真剣に向き合う場所なんですね」。
スキップして帰りたくなる 高揚感を与えるもの。
これまでにビームス、ユナイテッドアローズ、そして順理庵と、数々のショップを手掛けてきた重松さん。新境地としてスタートした『順理庵』におけるお店づくりのコンセプトにあるのが“進化する老舗”だった。「これは、老舗っていうのは進化しないだろうという仮説からきているんですけど、ある時、老舗っていうのは進化をし続けた後に老舗になるんだということに気づかされました。そして、今は『進化したら老舗』って言うようにしています。要は出来上がったものだけで商品構成する、これ以上どういじっても完璧にならないものを少しだけでいいので店頭に置きたいっていうビジネスのアプローチになります。
その中でも、私にとって印伝は完璧なアイテムです。なので、別注させていただくときは、出来上がった技術に我々のアイコンを入れさせてもらい、完成度を借りている感じなんです」。幼い頃から、“装う”ことが持つ力を信じてきた重松さん。「洋服に全く興味がない人でも、好みはあると思うんです。気に入ったものを手に取ったとき、身につけたときのスキップして帰りたくなるようなあの高揚感。気に入ったものを手にいれるということは、人間にとって重要なポイントだなと思うんです。我々はそれをお客様に提供することを生業としている。非常に価値のある仕事だなと思います」。
重松 理Osamu Shigematsu
1949年神奈川県逗子生まれ。73年明治学院大学経済学部卒業。73年アパレルメーカー、株式会社ダック入社。76年ビームス設立に携わった後に、ライフスタイル提案型セレクトショップの創設を図るため89年㈱ユナイテッドアローズを創業。現在は㈱ユナイテッドアローズ名誉会長のほか、(公財)日本服飾文化振興財団代表理事などを兼務。2016年4 月東京・銀座6丁目に、男女複合、和装洋装複合専門店『順理庵 銀座本店』をオープン。16年9月ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店内に『順理庵 六本木ヒルズ店』ショップインショップをオープン。
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