印伝

Life with INDENstory vol.5

上野 玄起Genki Ueno山梨県北杜市在住
鉄造形作家

山梨県北杜市在住
鉄造形作家

山梨県北杜市在住
鉄造形作家

多彩な表情を見せる"鉄" という素材に魅了されて。

鉄を自由自在に操り、大小さまざまな作品をつくり続けている上野玄起さん。「鉄はスピード感があります。溶接や鍛造で自分がイメージしたものを素早く形にできるところが自分の性格に合っていましたね」という上野さんは、長年鉄と向き合い、鉄で何ができるのか、どんな作品がつくれるのかを模索し続けてきました。「鉄は大切にしていれば何千年ももつもの。でも放置しておけば、朽ちて土に還っていく。強いようではかないし、硬いようでしなやか。磨くと光ったり、焼くと深みが出たり、錆びも味わいがあって、いろいろな表情を見せてくれる。その表情の変化がおもしろいですね」

住空間に溶け込むような作品を生み出していく。

作家としてデビューした当初は、現代彫刻作品ばかりつくっていましたが、アンティークショップで個展を開いたとき、家具の中に存在する自分の作品がいつもと違って見えたそうです。インテリアと鉄の作品が馴染んでいる様子を目の当たりにした上野さん、浮世離れしたギャラリー空間で美術愛好家に見てもらうだけでなく、自分から住空間にアプローチできるような作品もつくっていきたいと感じたのだとか。「美術作品に機能を持たせると、暮らしに取り入れやすいものになる。アートにクラフトの要素をもたせたり、クラフトをアート作品のように見せたり、その境界を失くしていくのが楽しい。アートは『心の栄養』だから、日常の生活空間に気軽に取り入れられることを作家として提案していきたい」

人間らしい豊かな暮らしを 求めて八ヶ岳南麓へ。

阪神大震災を経験し、自分の生き方を探し求めていたさなか、偶然テレビで目にした八ヶ岳の風景にインスピレーションを感じたという妻のしのぶさんに勧められ、現地へと足を運んだ上野さん。「この場所に立って、この風景を見た時に、直感的に思いましたね。この八ヶ岳南麓は世界に向けて発信できる場所だって。この土地に住みたいなと本能的に感じました」と力強く語ります。さらに、「自然農」との出会いも上野さんの生活や価値観に変化をもたらしました。「雑草と作物、虫たちが共存する畑は、自然が凝縮されたひとつの世界。その風景がとても美しかった。そして、自分は土壌で作品が作物だと考えるようになり、自分が豊かにならなければ良い作品も実らない。様々な情報(化学肥料や農薬)を得て無理に見栄えの良い立派な作品をつくるのではなく、土である自分がいろいろな経験をして豊かになることが必要だと感じました」

独特の模様の美しさと 漆の光沢感に惹かれます。

祖父から譲り受けた腕時計や父親から受け継いだペンケースに万年筆…ものを大切に長く使い続ける性格の上野さん。山梨に移住して初めて印伝を知り、「生活の中で伝統工芸品を使ってみたい」という気持ちが芽生えたといいます。物持ちが良い性分なのでなかなか買い替える機会がありませんでしたが、6年ほど前に印伝の印鑑ケースと出会い、今でも愛用されています。「印伝に実際に触れてみたら『なんかいいな』と直感的に思った。手触りや感触もいいけれど、写真では伝わらないこの漆の光沢感に惹かれます。色の組み合わせや模様の組み合わせで、いろんな可能性が無限にある点にもおもしろさを感じます。手にして初めてわかる印伝の良さもありますが、逆に模様や光沢といった見た目の美しさも魅力。だから、次に何かものを買い換えるときは印伝を選びたいという気持ちになりますね」

上野 玄起Genki Ueno

大阪府豊中市で生まれ育ち、京都精華大学卒業後、鉄の造形作家として活動を始める。現在は山梨県北杜市の上野玄起鉄の造形スタジオで、鉄をモチーフにした作品を作り続ける傍ら、私立高校の美術の教師を務めたり、子供たちのお絵かき教室を開催。「FeeLifeYATSUGATAKE」にも携わり、八ヶ岳のライフスタイルブランドを発信。

上野玄起鉄の造形スタジオ
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