印傳屋×女子美大による「進化 NEXT DESIGN」をテーマに掲げた新たな商品開発
印傳屋と女子美術大学・女子美術大学短期大学部がコラボレーション。伝統工芸とデザインの化学反応から生まれた新たな商品とは? その開発背景と全貌に迫ります。
株式会社印傳屋 上原勇七は女子美術大学・女子美術大学短期大学部との産学連携事業として、同校学生参加のデザインコンペティション形式による商品開発を実施しました。
コンペには66作品が出品され、テーマである「進化 NEXT DESIGN」に対して、印傳屋の歴史と企業理念を踏まえた新しいデザインを提案。厳正な審査を経て、最優秀賞には女子美術大学芸術学部 アート・デザイン表現学科ヒーリング表現領域4年の髙木智佳子さんが輝きました。
髙木さんがデザインしたテキスタイルはハイヒールをモチーフにした「Step」という作品。ハイヒールとコンペのテーマ「進化 NEXT DESIGN」をどのように結びつけたのでしょうか。
「印伝には伝統的な絵柄が多いので、『進化』というテーマから今までにないデザインを望まれているんだろうなと解釈しました。『今までにないもの』と『進化』というキーワードからモチーフを考えたのですが、ハイヒールには女性的なイメージのほかに、踏み出す一歩=進化という意味を込めているんです。女の子が女性に成長していくイメージと印傳屋さんにとっての新しいデザイン、両方にとってのステップアップを意識しながらデザインを深めていきました」
髙木さんによる「Step」はがま口財布(黒・赤)とコンパクトミラー(黒・赤)の2型4種類として商品化(販売期間は終了しています)が決定。
「つねに持ち歩いてほしい」という思いから、携帯しやすさを意識し、オーソドックスな商品を選びましたが、髙木さんを含めコンペに参加した学生の皆さんは、デザイン制作に取り掛かる前に、印傳屋本社と本店を訪ねるバスツアーに参加しました。実際に印伝が作られる場所に足を踏み入れたことで、制作に大きな影響を与えたといいます。
「ものづくりという概念と行為について、深く考えさせられる経験でした。職人さんを前にして、その製造現場には緊張感が走っていましたし、ものづくりとはいえ伝統工芸ですし、デザインする身として生半可な気持ちでは関われないなという気持ちになりましたね。また、商品製作の工程に多くの技師さんが関わっていることから、作品が自己満足で完結したらいけないと気付く機会にもなりました。私がデザインした後もデザインは終わらない。デザインするとき、買ってくれる人のことは考えますが、手に渡るまでに関わる人たちのことにはあまり意識が向かないんです。印傳屋さんとのコラボを通じて、デザイナーの責任は買い手との関係だけではないということを勉強できたのは大きいです」
髙木さんが話すように、大学の授業では自分の納得のいくデザインを完成させたら終わりというケースがほとんど。しかし、今回のようにデザインを世の中に流通する“商品”という形に仕上げることではじめて見えてくる課題と発見がありました。自身の作品に息吹が吹き込まれて商品へと変化していく経験を、髙木さんは次のように振り返ります。
「印伝はプリントではなく漆なので線の幅を調整するのが大変でした。実際に形にしてみると、結構傷が目立ったり絵柄の隙間が際立ってしまったりして、当初描いていたものから微調整を重ねていきました。素材の特性でテキスタイルの表現が制約されるということは勉強になりましたね。太いヒールよりもシャープなピンヒールの方が絵柄として個性的で、かつ背伸びする感じも演出できると思って、今のヒールのフォルムに着地しました」
【商品開発にあたり、髙木さんのアドバイザーを務めたのは女子美術大学非常勤講師の及川玲奈先生。】
髙木さんの「Step」について、その総評を女子美術大学の特徴と結びつけて語ってくださりました。
「進化を新たな一歩と解釈したコンセプトはただわかりやすいだけでなく、それが印伝と女性に掛かっているところが素晴らしい。髙木さんの作品は“芸術による女性の自立”を掲げる本学を象徴している部分もあります。私は甲府市出身なのですが、もちろん印伝は知っているものの、どこか年配の方が愛用しているという印象があったんです。現在は若者向けの商品も増えていますが、髙木さんの作品は若い学生も手に取りやすいですよね」
髙木さんは「Step」をどんな女性に、どんな風に使ってほしいと思い描いていたのでしょうか。
「いちばんは私と同年代くらいの女性をイメージしました。がま口には硬貨を収納するのが一般的ですが、口紅やリップクリームなどのコスメを入れたりして、コンパクトミラーと合わせてもいいと思うんです。長く愛用していただけることを願いながら、その人らしい使い方を楽しんでいただきたいですね」
現在4年生の高木さんは卒業後、大学院への進学を予定しています。その後、彼女が目指しているのは広告業界で活躍するアートディレクター。印傳屋とのコラボレーションを通じて、自身のデザインが世の中に商品として流通されるというデザイナー冥利に尽きる経験を積みました。それと同時に、デザイナーの関わりを見つめ直す機会を得て、これから彼女のデザインはさらに研ぎ澄まされていくことでしょう。髙木さんがデザイナーとしての節目を迎えたように、「Step」はすべての女性の節目に寄り添っていく。そんな人生の大切な瞬間に選んでいただけることを願います。
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