甲州印伝をたずさえて 甲斐國一宮 浅間神社
古くから人々の身の回りの品々をおさめるために使われてきた甲州印伝。時代によって生活様式や流行が変化するなかで、形状が変わったり、新しい用途に対応するものを作ったりと、つねに甲州印伝は進化を繰り返してきました。そこで、この読みものでは、現代のライフスタイルにあわせた甲州印伝のスタイリングを、季節のお出かけ先とあわせてご提案します。前回の山梨県甲府市のイタリアンレストラン「NODO」に続き、今回は同じく山梨県笛吹市の「甲斐國一宮 浅間神社」を訪れました。
新年は晴れ着を纏い、神様に感謝の気持ちと願いごとを伝える
笛吹市一宮町に位置する浅間神社。国道20号線沿いに鎮座する一の鳥居を北に入ると、二の鳥居が見えます。
境内に入ると左手に社殿、本殿右手奥へ向かうと「祓門(はらいもん)」という人型にくり抜かれた石像のほか、浅間神社の象徴のひとつである十二支まいりの石像が立ち並んでいます。
この十二支はその年の干支や自分の生まれた年の干支にお参りするとご利益があるとされ、さらにその先の成就石で祈ると願いが叶うといわれています。十二支の石像が揃っている神社は全国的にも珍しく、浅間神社には元日から多くの人々が初詣に訪れます。
かつて初詣には晴れ着で神社を訪れるという文化が根付いていました。しかし現代は普段着の参拝客がほとんどです。浅間神社の宮司である古屋真弘さんは「初詣は新しい年の始まりに神様へお祈りするという機会ですので、女性は着物、男性は背広・ネクタイでお参りいただくのがもっとも相応しいお詣りの仕方だと考えます」と語ります。
「初詣だからこうすべきというマナーは存在しません。神社に訪れるうえで、もっとも大事なのは感謝と祈りの心です。お正月は、前の1年間への感謝をまず神様へ伝え、この1年がいい年であるようにと続けてお願いする。それが1年のスタートとしても一番大切なことだと思います」
2019年は歴史上稀有な干支の年に
冒頭で触れたように、浅間神社の境内には十二支の石像が並んでいます。干支を意識する習慣はお正月ならでは。干支そのものにはさまざまな意味があり、自分の生まれ年の干支や今年の干支を調べることで、新たな気づきを得られる機会にもなります。いのしし年にはどのような意味があるのでしょうか。
「いのししには、前向きに新たなものへ向かっていくという意味があります。最後の干支であるいのししは終わりという意味ではなく、新しい干支に向かうスタートになるといわれています。2019年は5月に新しい元号を迎えるという象徴的な年です。そこに偶然にも始まりへ向かういのしし年が重なり、2019年は近年稀にみる干支の年になるのではないでしょうか」
猪突猛進という言葉が示すように、いのししは前に突き進む動物です。印伝のモチーフのとんぼ柄は勝虫といわれていますが、これはとんぼが前に進むことしかできないことに由来するもの。いのししととんぼには少なからず共通する部分があり、浅間神社には「勝虫守り」というとんぼを図柄にした御守りがあるのです。
「勝虫守りのとんぼは、まさに印伝のとんぼと同じ意味合いです。勝虫のお守りを持った方が前へ進んでいけるという願いが込められています。実は勝虫守りの生地は山梨県の富士吉田市と同じく織物業が盛んなことで知られる西桂町の産業とのコラボレーションなんです。傘生地のハギレを使ってつくられたお守りは耐水性が高く、子どもたちがカバンにつけて雨に濡れても汚れにくいんです」
古屋さんによると、家族で訪れ、家族単位でお願いするというのも正月らしく、初詣らしい風景。初詣では、広くは日本や世界、狭くは自分と家族に対して、この1年がいい年であるよう大きな気持ちで祈ってほしいと願います。
「初詣は生活の節目として清々しい気持ちと緊張感をもってお参りしてください。それに付随して正装し、お札やお守りをお正月らしく受けるのもいいですし、破魔矢や絵馬や熊手なども神様の力が篭ったものなので大事に飾ってほしいですね。よく着物屋さんと話すのですが、着物と日本文化は直結していて、着物文化が広がることで神社に参拝客が訪れることに繋がります。今の若い世代は国際化の傾向があります。その世界観を持つほどに着物や古典芸能などの日本独特の文化の素晴らしさに気づいていただけると非常に嬉しいです。印伝の革小物を愛用することで日本文化の良さを知るように、着物を着て初詣に訪れることを通じて古き良き日本の良さに触れていただけることを願っています」
新年に「飲む点滴」のすすめ
初詣とあわせて新年は日本独自の風習に触れる機会でもあります。新年ならではの日本文化、その最たる例は正月料理でしょう。おせちやお雑煮、お汁粉といった定番だけでなく、地域によっては甘酒も風物詩として認知されているようです。実際に甘酒は冷えた体を温めるために正月の神社の境内で振舞われることも珍しくありません。
そこで今回は簡単にできる甘酒のレシピをご紹介します。教えて頂くのは山梨県甲府市で醸造業を営む五味醤油より六代目の五味仁さんと広報の五味洋子さんです。
五味醤油は2018年に創業150周年を迎えた老舗企業。現在は醤油の製造は行っておらず、味噌を中心に醸造しています。兄妹である仁さんと洋子さんは発酵兄妹として活動し、味噌づくりのワークショップを定期的に開催するなどして、発酵文化を広く深く、そして、楽しく伝えています。150年以上続く家業はまさに伝統そのもの。脈々と受け継がれてきた醸造技術を守りながら、時代にあわせたトーンで革新的に日本独自の食文化である発酵の奥深さを伝えるその柔軟なスタイルは、印傳屋にも通ずるものがあります。
五味醤油といえば、米麹と大麦麹をあわせた「甲州やまごみそ」が主力商品ですが、米こうじを使った甘酒のレシピも発信しています。過去にメディアで健康や美容に甘酒が良いとクローズアップされると、五味醤油で販売している米こうじの需要が高まり、自宅で手づくりの甘酒を楽しむ人たちが増えたといいます。
「甘酒には2種類あります。1つは『酒粕と砂糖をあわせてつくる甘酒』、もう1つが『米こうじと水をあわせてつくる甘酒』です。今回ご紹介するのは後者ですが、砂糖を使っていないのに甘みが引き立つのが大きな特徴。その甘みをつくるのは目に見えないこうじ菌の力であり、米こうじの甘酒にはブドウ糖をはじめ、酵素によってつくられる必須アミノ酸、各種ビタミンが豊富なことから『飲む点滴』といわれているんです」(洋子さん)
誰でも簡単にできる甘酒レシピ
では、甘酒のレシピはお粥を炊いて、米こうじを入れる方法が一般的ですが、今回ご紹介するのはお粥を使わずに簡単にできるレシピです。
<ヨーグルトメーカーでつくるレシピ>
材料(甘酒 約600ml分)
米こうじ・・・200g
水・・・400〜500ml
保温機能のある機械 ※今回はヨーグルトメーカーを使用
プロセス
1. 揉みほぐした米こうじと水をヨーグルトメーカーに入れて、混ぜ合わせる。
2. 60℃で6時間にセット
3. 6時間待てば完成できあがり
「出来上がった甘酒は米の粒が残っているので、ミキサーにかけると飲み口が滑らかになりおすすめです。レシピのポイントは、こうじ菌が甘みをつくる温度をキープしてあげることです。温度は低すぎず高すぎず、57〜60℃がこうじの酵素がもっとも働いてくれるとされています。ちなみにヨーグルトメーカーをお持ちでない方も問題ありません。温度をキープできるものであれば、炊飯器の保温機能でも甘酒をつくることができます」(仁さん)
<炊飯器でつくるレシピ>
材料(甘酒 約600ml分)
米こうじ・・・200g
65℃のお湯・・・400~500ml
保温機能のある炊飯器
プロセス
1. 揉みほぐした米こうじと65℃のお湯を炊飯器に入れ、よく混ぜる。
2. 炊飯器は「保温」に。フタを開け、濡らした布巾で覆い5〜6時間保温する。
3. 途中かき混ぜて様子を確認する。
4. こうじの芯がなくなり、甘みを感じたら完成。
※ 65℃のお湯は生活であまり馴染みのない温度です。必ず温度計で測定してください。
※ 炊飯器の種類によっては、フタをしめて保温すると70℃以上になり、甘酒を甘くする酵素の働きが失われてしまいます。
新年は気持ちと装いを新たに初詣に行き、自宅では天然の甘みが身体を元気にする手づくり甘酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。2018年も残りわずかとなりました。どなたさまもよいお年をお迎えください。皆さまの新年が幸多きものになりますよう、印傳屋一同心よりご祈願いたします。
新年を迎える喜びや願いを印伝に込めて
健康や長寿を表す鶴亀模様と前向きに新たなものへ向かういのししの干支をあしらった印伝を、新年のはじまりに。新しく年を迎える喜びや願いを込めて。
※鶴亀模様・干支模様の商品は数量限定で発売いたします。
衣装協力:アンティークきものレンタル ゆめや