千二百年、
この国に生き続ける技がある。
燻(ふすべ)とは、
藁などをいぶした煙で革に色や模様をつける
古来の技法。
奈良時代に発達したその技術は、
以後さまざまなものづくりに用いられ、
日本の鹿革工芸に受け継がれてきました。
その流れは、鹿革を彩る甲州印伝にも。
印傳屋の四百年以上の伝統とともに、
燻の技は代々受け継がれ、
今日の印伝づくりに活かされています。
燻の歴史
聖武天皇の御物にも用いられた燻。
人類は太古のむかしから、皮革を暮らしの道具に利用してきました。6~7世紀頃には革を煙で鞣していたと考えられ、次第に着色や装飾のために燻の技術が発達します。東大寺所蔵の「葡萄唐草文染韋」(国宝)をはじめ、正倉院にも燻が用いられた品々が現存しています。
武将の鎧兜から町人の巾着へ、
そして現代の印伝へ。
武士が台頭する時代になると、鹿革は鎧兜などの武具に利用されます。菖蒲や小桜などの模様を施した染革とともに燻革も多用され、武将の勇姿を飾りました。「日本人は藁の煙だけを用いて巧みに着色する」。織田信長に謁見したことでも知られる宣教師ルイス・フロイスは、著書『日欧文化比較』(1585年)でそんな驚嘆を記しています。
江戸時代になると染革や燻革は、武具にかわって袋物や提物、装飾に利用されます。南蛮貿易で装飾革「インデヤ革」が伝来し、後に和様化され「いんでん」と称するようになり、粋人の暮らしを彩る道具として愛用されました。
その後、近代化や大戦の動乱により日本各地で燻の伝承が途絶えるなか、印傳屋は「甲州印伝」の伝統とともに、その技を繋ぎ続けています。
*「燻」(ふすべ)は、印傳屋の登録商標です。
燻の工程
職人の腕のみぞ知る、燻の真髄。
燻は、煙の量、煙を当てる時間によって
茶褐色の濃淡が微妙に変化します。
むらなく燻べるための高度な技は、
熟練の職人だけが駆使できるもの。
古来の技を、印伝の伝統工芸士は
今も磨き続けています。
焼擦り
鞣した鹿革を専用の台に張り、熱した焼きごてを革に当てて滑らせ、革に残る凹凸を整えます。この工程を繰り返し、滑らかな白革に仕上げます。
糸掛け/糊置き
縞模様に仕上げる場合は、タイコと呼ばれる燻べ筒に白革を固定させ、糸を巻きつけます。「とんぼ」や「小桜」といった模様を付ける場合は、あらかじめ模様の部分を糊で防染し乾燥させた後、タイコに固定します。
燻-ふすべ-
結んだ藁を竈に隙間なく詰め火を付けます。排煙口から上る煙の出具合を確かめ、手でタイコを回転。左右に移動させながら革にまんべんなく煙をあてていきます。燻しの作業はこれを一日半ほどかけ繰り返します。
糸切り/糊掻き
茶褐色に染め上がったら、タイコに巻いた糸を切ります。すると糸の部分が白く残り、縞模様ができます。模様の場合は、ヘラで糊を剥がすとその部分が白い模様となって浮かび上がります。
誂え
古典の技法でつくる無二の印伝。
燻はお客さまのご注文をいただいてつくる
誂え品です。
お財布や袋物など
ご希望の商品にお好みの模様を施して
職人がていねいにつくりあげます。
奈良時代より伝わる古典技法で、
この世に一つだけの印伝を。
ご興味のある方はこちらをご覧ください。